林業の仕事のお話を聞くと必ず出てくるのはシカ対策ですが、シカは手当たり次第に植物を食べてしまうようです。なぜシカがこんなに増えたのか。要はシカを狩る人間が減って、人間がシカを狩る量より、シカが増える量の方が多くなってしまったからです。
このシカの食害に対して、
農山村で働く人たちの生業を通したその地域の生態系の管理が必要である。(藤森隆郎『林業がつくる日本の森林』より)
と述べている。
理想はそうかもしれないが、果たして今の農山村で働く人たちだけでそんなことはできるのだろうか。少なくとも私はシカを獲ったことも無ければ、食べたこともないし、聞いたこともないが、そのような人たちに鹿肉を提供して食べてもらえるのだろうか。スーパーに行けば、鶏・豚・牛と肉が揃っているが、あえて鹿肉を食べるのは、よほど課題認識が強いか、その地域にスーパーがないのではないか。何はともあれ、まずは自分で獲って食べてみなくては、この著者が述べる波は起こせない。
人口が一定数を割ると、行政も成り立たなくなるか、少なくとも維持は難しくなる。森林管理も道路や下水といったインフラと同じように考えることができるのではないか。これからの日本では、行政が維持できなくなった過疎地から行政が成り立っている土地に人の移動を多少強制しないと全体が大変・不幸になるのではないだろうか。これはあくまで全体のことであり、今までの当たり前をこれからも維持していくことが前提で、これまでの当たり前を捨てれば、そこに住み続けても問題はないし、個人でで決めればそれもまた問題はない。
夏高温多湿である日本の気象条件の特色について
雨が多くて年間を通して概して温暖で、特に夏高温多湿になるということは、スギやヒノキやカラマツだけをとって好適な生育環境ではないということであり、多様な植物間の激しい競争があるということである。皆伐をしてスギやヒノキを植えれば、その場には多様な陽性の草木類や木本類が繁茂する。皆伐面はスギやヒノキよりも、他の初期成長が早い植物にとって好適生育環境なのである。
したがってスギやヒノキなどの更新には下刈りやつる切りの初期保存経費が多くかかり、日本の育林経費は他の温暖諸国のそれに比べて10倍ぐらい高いということを知っておかなけらばならない。コストのかかる初期保育の頻度を高くする、短伐期の皆伐施業は日本の林業には合わない。
と述べている。
以前、林業をされている方から、「重機を入れて何度も皆伐しているとレンタルする費用が全伐より高くなるため、皆伐している。」と教えてもらったことがあるが、林業の1サイクルとして見た場合は費用はどうなるのか気になった。保育期間の費用を抑える林業を行うことで、皆伐のいらない林業はできないものか。
ドイツと日本の補助金のあり方について、
林業国であるドイツをはじめ多くの国では、農業と合わせた農林業従事者に所得補償と、必要に応じて補助金が支払われている。その総額は日本よりも大きいところが多い。国土保全にも強く関係する林業を維持し、振興させるためには所得補償や補助金は必要である。だが多くの林業の先進国の補助金が、各地域独自の林業の質を高めることに使われているのに対し、日本では国が中央で一律に決める補助金政策が、それぞれの地域の林業経営者や森林組合の多くを脳死状態のようにし、自ら技術や経営の創意工夫をする姿勢を弱めていることが大きな問題である。
と述べている。
これは林業に限らず、地方公共団体への補助金も同じようなものである。地方の活性化、成長を支える補助であるはずであるが、国が一律に行うため、結局、国の定めたルールの中でガチガチに縛られたものにしかお金を使うことができない。地方分権で地方に裁量があるように見せかけて、結局財源的な部分で地方に自由がない。これでは、公務員の皆様のモチベーションも上がらないと思う。林業においては、確かに補助の矛先を所得補償に充てた方が、利益を度返しした、未来のためになる林業を行えるのではないだろうか。